夢洲の未来

2025年に大阪市夢洲万国博覧会が開催される.1970年の万博は,「人類の進歩と調和」がテーマであった.中学生だった私は、長い行列に加わって月の石を見て、科学技術のすばらしさに感動した.一方、岡本太郎太陽の塔内部に製作した「いのちの樹」でいのちの躍動と尊厳を訴えた.その思想は万博終了後に受け継がれる.会場跡地は「緑に包まれた文化公園」とする基本計画が策定され,60万本の樹木が植栽された.植樹約40年後にはオオタカが営巣するなど自然が着実に回復している.2000年からは生物多様性を高めるために,密生しすぎた木を切って空き地をつくる「人工ギャップ」という管理手法を採用し、モニタリングを継続している.

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 2005年の愛・地球博では,会場予定地にオオタカの営巣が確認された.貴重な自然を守るために会場計画が大幅に修正される.里山が守られたのみならず,造成による土地改変をおこなわずに地形の起伏やため池を残した会場となった.会期中は再生可能エネルギーの利用や壁面緑化「バイオラング」の利用など,自然環境保全のための知恵が活用された.これらの取り組みは,2010年の生物多様性条約COP10や2014年のESDユネスコ会議の愛知開催につながった.

 2025年万博はこれまでの博覧会と異なり,海上埋立地を会場とする.しかし,ここが自然の宝庫であることは知られていない.過渡的にできた湿地に本州最多,数百羽のツクシガモを含む数千羽以上の水鳥やワシ・タカ類が飛来し,絶滅危惧種コアジサシが繁殖する.大阪では絶滅した水草,カワツルモの生育も確認された.夢洲がある大阪湾奥はもともと難波潟という干潟が広がり,豊かな漁場が形成されていた.陸と海のつながりが豊かな自然を実現する.埋め立てによって干潟は失われたが,水鳥たちの渡りのルートは変わらず,人工的な干潟が出現すると再び訪れたのだ.人間が奪ってしまった、住かの一部を返せないだろうか.

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大阪は人と海が創りあげてきた.藻塩が焼かれ,海産物が採られ,商船が行きかった.コンクリートで覆われた大阪は一時的な姿に過ぎない.コロナ後の社会の在り方として,環境を重視した経済政策であるグリーンリカバリーが必要とされる.夢洲が最新の技術を用いるスマートシティとなることは素晴らしいが,海の豊かさを置き去りにしてはならない.

どうすれば子供たちに海の豊かさを伝えられるのか.阪南市では小学生がアマモ場の再生に取り組んでいる.海の森(アマモや海藻)は魚のゆりかごとなり、地球温暖化対策に役立つ.東京湾ではコンブが養殖されている.関西空港の傾斜護岸には豊かな藻場が形成され、カサゴメバルが住みついた.野鳥園臨港緑地(南港野鳥園)の森にはアカテガニが住み、泉南の海岸ではウミホタルが光る.夢洲で実装される「いのち輝く未来社会」は地球が人のためにだけあるのでなく,多くのいのちを育んでいるという気づきをもたらす社会としたい.